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蛙の末裔の妄創手帖

ポリシーは「ものに優しく」。
人畜無害で善良な変質者を目指します。
って、なにそれ?

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2024/12/04(Wed)17:25

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近代化産業遺産

2015/09/20(Sun)01:30

 8月22日に九州工業大学へ行ってきました。

 せっかくシルバーウィークなんですから、「今日は○○へ行ってきました」的な記事を書けると良いのですが、今日は職場に行っただけなので……。

 そもそも、なぜ九工大に行ったのかと言うと、屋外に常設展示されている機械群を見たかったからです。また、九工大には建築面でも有名な物がいくつかあります。



 というわけで、まずは建造物から。例によって下手なステレオ写真ばかりを貼っていきます。

 正門。辰野金吾の設計で、1909年の開学当時から表門だったそうです。と言いますか、九工大の前身である明治専門学校は、表門や後述の守衛所だけでなく、主要な建物が軒並み辰野金吾の手による建物でした。特に本館などは、残っていたらさぞ壮観だったろうなぁと思わせるものです。


 守衛所。現在、辰野金吾が関わった建物は正門とこの守衛所しか残されていません。ただ、守衛所としては現役です。九大箱崎キャンパスの守衛所(こちらも現役)と比べると、心なしか親しみやすい気がします。

 
 鳳龍会館(旧事務棟)。東工大教授も務めた清家清の設計です。東工大OBとしては、清家先生と言うほうが耳に馴染みますね。清家先生にお会いしたことはないのですが、いくつか逸話は伺ったことがあります。
 機械系の私にとっては、比較的身近な清家建築が東工大大岡山キャンパスの南5号館でした。正直、あちらはあまりピンとこない意匠でしたが、この旧事務棟はいいですね。地面から離れた床と大きなガラス、薄い庇がまとまって軽やかさを主張している気がします。


 記念講堂。木が茂っていて見づらいのですが、とてもダイナミックな建物です。凹凸の少ない壁面と波打つ巨大な庇の対比によるアンバランスさが心に残ります。この庇の波形は屋根と連続しており、さらに裏手の壁まで続いています。扇子を引き合いに出すのがまっとうでしょうが、個人的にはライト兄弟以前の飛行機を想像させられました。


 保健センター。前出の建物と違って無名なのですが、なんとなく気になったので。
 正面右の外階段とそれに続くベランダが広々としていて、南国らしさを感じました。この印象を、「東南アジアのコロニアル建築っぽい感じがする」と言ったら流石に怒られるでしょうか。


 体育館。こちらも別に有名ではないと思いますが、補強用の梁が印象的でした。この梁があるだけで、建物から箱っぽさが薄れるのが興味深いです。

 これらのほかにも、九工大には著名な建築家による新しい建物が結構あります。ただ、今回は下調べ不足で詳しく見られませんでした。そのうちまた行っても良いかもしれませんね。九工大はカフェも良いですし。
 このカフェ、「カフェ ド ルージュブラン」と言うのですが、おしゃれで安くて素晴らしいです。もし自分が九工大の近隣住民だったら、毎週土曜日にランチに通ってしまいそう(※)。地元の奥様方が集まっていないのが不思議なくらいでした。
(※:現在でも毎週土曜日のランチを大学でとっていますが、それとこれとは違うんです。)


 さて、次からがメインの機械群になります。これらの機械は経産省の近代化産業遺産にも登録されているようです。

 ジグボーラー。スイス、SiP社製で、20世紀前半の工作機械業界では傑出した精度を誇ったそう。佐貫亦男著「発想のモザイク-技術開発の民族風土-」でも丁寧に語られています。SiPの機械は今でも評価が高く、WEB上ではこんなニュースも見つかりました。「神の機械」かぁ。あいにく私はSiPの機械を使ったことがないのですが、一度は体験してみたいものですね。


 ラジアルボール盤。名称は近代化産業遺産の登録名称に準拠しているのですが、こっちはラジアルボール盤なのに一個前の機械はジグボーラーなんですよね。
 このラジアルボール盤は物としては古いですが、同じ形式のボール盤がどこの大学の工場にも一つはあるんじゃないでしょうか。卓上ボール盤では無理なサイズの大穴を開けたいときに使っているイメージです。え?NCフライス?いやぁ、それを言うなら中ぐり盤でしょ。


 平削盤。平面出しのために使われていました。これよりずっと小さいですが、高専時代に型削盤(形削り盤)の実習があったので懐かしいです。もう引退された技官さんが、横フライス(盤)の仕上げより粗くても良いのならこっちの方が手っ取り早い、とおっしゃっていたのを思い出します。


 立て型削り盤。例によって送り仮名がめちゃくちゃですが、バイトを上下に動かすタイプの型削盤です。なのでこの名前は、立て+型削り盤ということになりますね。スロッターとも言います。
 平削盤も同様ですが、刃物を往復動させるタイプの工作機械は良いですよね。あの間欠的な動作音には、「人を機械で置き換える」という、人類が工作機械に込めた原初のロマンが残っている気がします。……やばい、型削盤欲しくなってきたかも。まあ持っててもどうしようもないんですけど。


 回転変流機。てっきり工作機械だけが展示されているのかと思っていたら違いました。この回転変流機は交流を直流にする機械です。機械なので、変流器じゃなくて変流”機”なんですね。見るからに大電力を制御できそう。


 往復動型空気圧縮機。モーターのついたコンプレッサーですね。モーターがでかい。対してコンプレッサーの方は一見ただの箱というか、無表情な感じなのであまり目立たないかもしれません。


 ゐのくち式ポンプ。渦巻き型遠心ポンプの理論をまとめた井口在屋博士が考案し、事業化したものです。不勉強で流体機械には詳しくないのですが、同種のポンプは現役で使われていますよね。技術史的な立ち位置は、前出のラジアルボール盤に近いでしょう。


 ペルトン水車。圧縮機やポンプとは逆に、流体からエネルギーを取り出すほうの機械もありました。ペルトン水車も現役の機構ですね。
 ちなみに、以前聞いた話によると、昭和初期の日本には小規模水力発電の事業者が非常に多く(インフラのためではなく、私的な事業に使うための電気を自分たちで作っていたらしい)、水力タービンの技術が広く普及していたのだそうです。


 バックトン引張試験機。イギリスのバックトン社製で、引張試験だけでなく曲げ試験や圧縮試験もできました。説明によると1970年頃までは使っていたそうです。が、試験機としては油圧のほうがコンパクトで有利でしょうかねぇ。
 ここでは黒塗りにされてしまっていますが、もっと現役に近い姿を機械遺産のページから見ることができます。


 というわけで、ヤブ蚊が多くて大変でしたが一通り拝見することができました。うん。とても有意義でした。

 ただ、こうして工作機械が屋外に置かれているのを見ていると、やはり一抹の寂しさがよぎりました。本来、工作機械は屋外にあるものではありません。当たり前ですが、変流機も屋内にあるべき代物です。SiPのジグボーラーが「神の機械」と呼ばれたのも、きわめて清潔な工場で作られたからこその高精度に由来するわけですから、SLを屋外に展示するのとはちょっと考え方が違います。(そのSLも放置が過ぎて問題になっていますが。)

 結局、このような屋外展示は、機械の価値、とりわけ工作機械の価値をそのシルエットにしか認めていないように思えてなりません。それは工作機械を工作機械としてではなくて、オブジェとして評価しているということです。
 名門、九州工業大学ともあろうものが。

 まぁ、それは自分の専門に近いから出てくる感想なのでしょう。私自身も、別の場面で同じような評価の仕方をしていないとは限りません。
 ただ、屋内にあるべき機械は屋内で(※)見たかったなぁ、というのが本音です。もちろん、黒く塗りつぶしたりしないで。
(※:保管コストという難しい問題もありますが。)
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No.584|各種見学Comment(2)Trackback

Comment

回転変流機まで!!

2015/09/24(Thu)20:53

こんなものがあるんですね。

自分は電気系なので、回転変流機とかぺルトン水車とかは、教科書ではなじみがあるものの、本物は見たころないんですよね。

九州旅行に行く理由がひとつできました。
ありがとうございました。



それにしても工作機械が野ざらしというのは、ちょっと悲しいですねぇ。

以前、工作機械の動態保存で有名な、日本工業大学の工業技術博物館で職員の方と話をしたんですが、そこでは機械はもちろんのこと、電気まわりにまで気を使った保存を心掛けているそうです。今ではまず見なくなったような、がいし引き工事とか、ツメ付きヒューズについて、熱く語る職員さんを前に、いたく感動したのを覚えています。
職員さんいわく「できる限りそのままの形で残してやりたいじゃないですか」とのことで、これこそ機械に対する”愛”なんでしょうね。

ただ、ここまでやるとなると、建物だけでなく、専属の職員までつけないといけないでしょうから、コスト的にはなかなか難しいところがありそうですね。。。

No.1|by uu-iga|URLMailEdit

日工大は別格です、はい

2015/09/26(Sat)15:09

コメント有難うございます。

そうなんですね。電気まわりまで……、つい機械にだけ目を向けがちなので、見どころを教われた気がします。
まさに愛だ。身がすくむ。

そしてまた、igaさんはそういう話を引き出したわけですよね。


工業技術博物館には早いうちに行っておかないとなあ(まだ行ったことがないモグリなので)。
たしか、小山高専から引き取られていったジグ中ぐり盤もいるはずです。

No.2|by 蛙の末裔|URLMailEdit

Comment Thanks★

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